Nº8 鋳物の銘機「THE Fuji」コーヒーミル

昭和の東京オリンピックの年に厨房へ迎えられた鋳鉄の機械

コーヒー文化の開花と東京での修行

昭和39年の東京オリンピックが開催された年、新洋軒は新しい店舗を構え、第二創業期とも呼べる大きな転換期を迎えます。
喫茶の文化が花開き始める中、先代の妻である玲子は、新店舗オープンの軸となる本格的なコーヒーの抽出を学ぶため東京へ向かいます。当時の最先端であった喫茶の門を叩き、確かな技術を身につけ、この富士珈琲製のミルの導入に至ったのです。

歴史を刻むナンバーと堅牢な造り

本体の銘板には「MACHINE NO. 1151」「SERIAL NO. 6401003」という数字が打たれています。これは単なる製造番号ではなく、町に新しい洋風文化がもたらされた歴史的転換期の記録です。本体は20kg、どっしりとした重厚な鋳物で作られており、鮮やかだった赤と黒の塗装は剥がれ落ち、黄色の下地と黒褐色の鉄の地肌がむき出しになっています。特徴的な丸形ボディの中心に備えられた日立製作所製のモーターは、長きにわたり過酷な使用に耐え抜いてきました。

本体上面に打ち付けられた金属の銘板には、1960年代の工業製品ならではの確かな手仕事の痕跡が残されています。

🇦マイナスネジでの固定 銘板の四隅を留めているのは、現代の機械では見かけることの少なくなったマイナスネジです。プラスネジが大量生産の現場を完全に席巻する以前、職人がドライバーの溝を慎重に合わせ、手作業で均等に締め込んでいた時代の仕様で、貴重な遺産となります。

🇧手打ちのナンバリング 刻まれた「SERIAL NO 6401003」の文字列は明らかに、数字の深さや隣り合う間隔が不揃いであることがわかります。これは機械による均一なプレスやレーザー刻印ではなく、当時の職人が金属のポンチを一本ずつハンマーで叩き、手作業で打刻した数字です。

🇨シリアルナンバー「6401003」 この7桁の数字の頭にある「64」は、1964年(昭和三十九年)製造であることを示しています。奇しくも東京オリンピックが開催され、新洋軒が新しい店舗を構えてこのミルを厨房に迎え入れた年と完全に一致します。続く「01003」は、その年の初期ロットで生産された若い番号であることを意味しています。01は1月、003はその月の製品番号と推測されます。

料理とのペアリングと新たな双璧

六十年の時を経た現役の確かな味わいは、その時々の料理とのペアリングによって、また異なる表情を見せます。なお、この富士珈琲のミルと双璧を成すように、新たに厨房へ導入した「Kalita ハイカットミル」については、また別の機会に詳しくご紹介できればと思います。

挽かれたばかりの粉にお湯を注ぎます。粉がゆっくりとドーム状に膨らみ始めると、深い焙煎の香りが立ち上ります。現役で働き続ける機械が放つ微かな熱と、店内に響くかすかな湯の音。二つのミルが挽き分ける珈琲の香りが、今日も厨房の空気を少しだけ濃密にしています。

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