Nº 10 サンドウヰツチ 四五

新洋軒のメニューを読解 〜 激動の日本、パンメニューを牽引した「エツグサンド」

昭和十年代のメニュー表と四十五銭の価格

新洋軒に保管されている最も古い縦書きのメニュー表には、「サンドウヰツチ」という品書きが印刷されています。下に記された「四五」という数字は四十五円ではなく、四十五銭のことです。当時のコーヒー一杯が十銭であったことを踏まえると、洋食が特別な食事であった事実がはっきりと浮かび上がります。「ヰ」の文字を用いた独特のつづりには、当時の新しい西洋文化を真っ直ぐに取り入れようとした店内の空気がそのまま残されています。

昭和四十年代のパン食と「エツグサンド」

昭和四十年代に入ると、日本の食文化の変化に伴い、店内で提供される品目も様変わりします。横書きになったメニュー表には、新しい主食として定着し始めたパンのメニューが七種類も並べられています。通貨の単位は「円」へと完全に移行しました。印刷の文字をよく見ると、「エッグサンド」の促音が大きな文字のまま「エツグサンド」と記されています。当時の活字ならではの不揃いな並びが、メニュー表の字面に手仕事の温かみを与えています。

昭和五十年代のメニューが、手書き価格のミステリー

昭和五十年代のメニュー表は、品名だけがあらかじめ印刷され、価格の欄には黒いペンで手書きの数字が書き込まれています。わずか十年ほどで価格が倍増していく物価上昇の波に対応するため、店内で都度書き換えていた記録です。また、メニューの中にはわざわざ「(パン食を好む方のために)」という一言が添えられ、多様化するお客様への気配りがうかがえます。なお、この新洋軒ランチについては、また別の機会に詳しくご紹介できればと思います。

長い年月を経てかすかに黄ばんだ厚紙のメニュー表からは、古い紙と乾いたインクの匂いがします。外国の映画音楽、日本のフォークやニューミュージックが流れる客席。厨房からはフライパンを揺する音、深く淹れられたコーヒーの香りが静かに漂ってきます。

エッグサンドの再現

メニュー表に記された「エツグサンド」は、焼かないやわらかい白パンの間に、温かいスクランブルエッグを挟んだ独特のホットサンドでした。カットは写真のように大変特徴があり、皿の中央には現在の定番であるパセリではなく、真っ赤な缶詰のチェリーが一つ乗せられていました。

客席へお持ちする際には、必ず塩を一緒にお運びするのが決まりです。この新洋軒ならではの仕立てのエッグサンドは、昭和五十八年に姿を消しましたので、新洋軒で食べて覚えているという方がいらっしゃれば、本当に懐かしい思い出の味ですね。