Nº 15 バターケーキの型

初代が残した逆台形のブリキ型と 時代を写して焼かれる洋菓子

「ブリキ型」用途の分からない物も

新洋軒のキッチンには用途の分からない古い道具が数多く残されています。
初代が「作りたい料理のためには必要な道具を揃える」という、妥協しない方向性を持っていたためでしょう。
当時の洋菓子の製法については、二代目と、その後の料理長にも引き継がれないことが多い中、写真の右中央にあるブリキの型については、明確に用途が語り継がれている数少ない道具です。

逆台形の専用型と型紙

そこでこの型は、当時提供していた三つの洋菓子メニューのうちの一つ、「バターケーキ」を焼くためだけに使われました。
ドライフルーツが入るので、一般的には「フルーツケーキ」に分類されますが、新洋軒では「バターケーキ」と呼んで販売しており、メニューにもそう書かれていました。
上に向かって広がる逆台形をしており、焼き上がりの両端を切り落とす際のロスが大きい特徴的な形をしています。
型の内側には、サイズに合わせて切った新聞紙を敷いて生地を流し込んでいました。後に広告の裏紙になりましたがが、今ではとても信じられない光景ですね。

現在の手作り砂糖漬けと、変わらない美味しさ

現在は切り分けて販売することがあり、写真左側の長くて大きい型を用いてバターケーキを焼くようになっています。
中に入れる具材は、柚子、フキ、プルーン、ルバーブ、その時々で柿や苺などを使い、自家製の砂糖漬けに仕立てます。山の胡桃が入ることもあります。これらに干しぶどうを加え、”地域をより生かしたお菓子作り”という、初代とは異なるアプローチに取り組んでいます。

初代が焼く生地は、ヒヨコのようなやさしい黄色をしていました。
中には干しぶどう、緑色のアンゼリカ、真っ赤なドレンチェリーが控えめに散りばめられおり、時代感がにじみ出た雰囲気を醸していました。
焼き上がった生地から漂う濃厚なバターの香りと、口に含んだときのしっとりとした食感。切り分けられた断面に赤いチェリーの姿を見つけたときの嬉しさなどなど、様々な記憶が、今もなお筆者の脳裏によみがえります。

現在の新洋軒のバターケーキは、材料やスパイスが多様に変化します。しかし、バターの香りと切り口の美味しそうな姿は今も昔も変わりません。